デジタル・レコーディング
今は、特に意識もなくデジタル録音が普通になっている。しかし、かつてはデジタル録音の敷居は非常に高かった。
専門学校を卒業後、スタジオ実習の講師の先生・・・プロのスタジオ・エンジニアと交遊があり、時々仲間と集まることがあった。
ある時、欲しいものがようやく手に入ったからと、自宅に招かれた。飲み会がメインなんですが。
そして、いつもはリビングだけなのに、その日だけは書斎に通された。
「これだよ!」そう言って指差した棚には・・・
「SL-F1」と「PCM-F1」が。
SL-F1は、ポータブルのベータマックス。つまりビデオデッキ。
そして、PCM-F1は同サイズのデジタル・オーディオ・プロセッサ。
SL-F1は、バッテリー駆動できるビデオデッキで、チューナー部は別になっている。ビデオ用カメラを接続すると、コンパクト?な、取材用機器となる。
セミ・プロ、プロ用として取材現場では、重宝されたとか。
そして、PCM-F1は、このSL-F1用に発売された、PCMプロセッサ。
当時、PCM(デジタル)録音するには、マイクなどで取り込んだ音源をD/Aコンバーター、PCMプロセッサなどで、デジタル信号に変換して高周波が録音できるレコーダーに録音しなければならなかった。
当時は高周波録音ができる専用機器は民生用には存在しなかった。
ビデオデッキはカセットテープやオープンリールテープのような、固定ヘッドではなく、回転しながら録音する、ヘリキャルスキャン方式のため、高周波信号の記録・再生が可能。
そこで、映像信号ではなく、PCMコンバーターで変換されたデジタル信号を録音・再生することで、当時としては最小のデジタル・レコーディング・システムが完成することになる。
それを個人で購入したわけだ。いくら仕事に関係するとはいえ、総額で40万円を越える機材はなかなかハードルが高い。
実際に音を聴かせてもらったのだが、テープデッキ特有のテープヒスがないクリアーな音は単純に感動しかなかった。
余談ではあるが、オーディオ業界では、テープ派とレコード派にわかれており、テープ派は「自慰」、レコード派は「SM」と互いに言い合っていたとか。
テープはヘッドで擦って音を出す。レコードは針で引っ掻いて音を出すからと言うのが起源らしいのだが。
さて、デジタル派はどう呼ぶのだろう。